【特別インタビュー】
経済産業省の医療・福祉機器産業室長に「医療機器業界のこれから」をインタビュー
富原早夏さん①
日本が目指す医療機器産業の未来とは
医療機器産業は今後もっとも注目すべき産業のひとつ。政府は国をあげて医療機器開発の発展に向けた政策を打ち出しています。
今回はその中心人物である経済産業省 医療・福祉機器産業室長の富原早夏さんにお話を伺うことができました。
全3回にわたって富原さんに日本が考える医療機器産業の現状や未来像に迫る特別インタビュー。
まず第1回目は、医療機器産業の動向や経済産業省が取り組もうとしている政策の概要をお聞きします。
【今回お話を聞いた人】
経済産業省 医療・福祉機器産業室長 【※肩書は取材時】
富原早夏さん
東京大学大学院薬学系研究科卒業後、同年より経済産業省に勤務。経済産業政策課、産業人材政策参事官室、産業再生課、省エネルギー・新エネルギー部政策課、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院留学、アジア大洋州課を経て、平成27年にヘルスケア産業課(総括補佐)。本年7月より現職。
市場は急激に拡大中。国内外の医療機器産業の動向
――まず、経済産業省として現在の世界的な医療機器産業の動向をどのように把握していますか?
富原さん「日本国内では高齢化が急速に進み、国外では新興国の成長に伴って医療や福祉を含む社会インフラの整備が進んでいます。医療機器産業は、健康寿命の延伸に大きく貢献するなど、経済成長の原動力となる重要な産業ですし、グローバル経済においても40兆円を超え、産業としても大規模かつ世界的に拡大している領域といえるでしょう。」
――そういった状況の中、現在日本の医療機器産業はどのような立ち位置にいるのでしょうか?
富原さん「医療機器は『診断に使う機器』と『治療に使う機器』の大きく2種類に分けられるのですが、日本のメーカーが活躍しているのは超音波画像診断装置やMRIなど、主に『診断に使う機器』の領域。特に軟性内視鏡における日系企業の世界シェアは98%を占めています。新興国の医療ではまず診断が必要になりますし、ヘルスケア業界のイノベーションが診断の領域で蓄積した『データ』から始まることを考えると、診断の機器を開発してきたメーカーが今後、医療機器産業の発展の鍵を握っているといえるかもしれません。」
2020年までに5種類以上の革新的医療機器の実用化を目指す
――医療機器産業のさらなる発展が求められる中、政府が推し進めている政策とはどのようなものなのでしょうか?
富原さん「革新的医療機器の研究開発に予算を投資し、これまでに医療研究開発機構(AMED)を通じてスマート治療室「SCOT (Smart Cyber Operating Theater)」や、「軟性内視鏡手術システム」などの開発が進められてきました。2020年までに5種類以上の革新的医療機器の実用化を目指し、今後も応援していきます。
ここで重要になるのが、リスクを恐れないベンチャー企業や、ものづくりの技術をもった中小企業の活躍です。異業種や海外からも積極的に医療機器産業に参入してもらえるよう、事業環境の整備や海外市場の獲得にも力を入れていきたいと思っています。」
医師と手を取り、より良いものを目指す。医療機器産業の魅力
――富原さんが考える医療機器産業の特徴とはなんでしょうか?
富原さん「医療機器開発の特徴として挙げられるのは、製薬の開発が企業や大学の発明や新たな技術など、すなわちSeeds(シーズ)から由来するのに対して、医療機器の開発は医療現場のNeeds(ニーズ)から由来するということです。また、開発のプロセスにおいては、製品をリリースした後も機能や構造を必要に応じて変更、改良できるというのも医療機器ならではだと思います。」
――それでは医療機器産業の魅力とはなんでしょうか?
富原さん「医療機器の開発はメーカーだけで進めるのではなく、初期段階から長期的にメーカーと病院や医師が連携していく必要があります。これは医療機器産業の難しさでもあり、同時に面白さでもあると思います。時には『この素材をあと少し細くできれば救える命があるのに』と、わずか数ミリのために情熱を注ぎ、議論や実験、開発を繰り返す……。私が知っているとある医師の方は、医療機器の開発に関わってから『一緒に同じ目標を目指す関係者が、仕事を超えて大切な“仲間”になった』と語っていました。医療機器産業はとてもやりがいのある魅力的な業界だと思います。」
富原さんの言葉から、医療機器産業の現状や目指すべき未来像を知ることができました。また、医療機器の開発に携わった医師の方の言葉も印象的でしたね。
次回は、日本が抱える課題と、そこで求められる医療機器の在り方をお話していただきます。
お楽しみに!
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