【特別インタビュー】
経済産業省の医療・福祉機器産業室長に「医療機器業界のこれから」をインタビュー
富原早夏さん②
日本が抱える課題
政府が打ち出している医療機器開発の発展に向けた政策において、その中心人物として重要な役割を担っている経済産業省 医療・福祉機器産業室長の富原早夏さんへの特別インタビュー。
前回は「医療機器産業の動向や経済産業省が取り組もうとしている政策の概要」を伺いました。
今回は、日本が抱える課題と、そこで求められる医療機器のあり方についてお話していただきます。
【今回お話を聞いた人】
経済産業省 医療・福祉機器産業室長 【※肩書は取材時】
富原早夏さん
東京大学大学院薬学系研究科卒業後、同年より経済産業省に勤務。経済産業政策課、産業人材政策参事官室、産業再生課、省エネルギー・新エネルギー部政策課、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院留学、アジア大洋州課を経て、平成27年にヘルスケア産業課(総括補佐)。本年7月より現職。
高齢化による労働力の低下。日本が向き合う課題
――前回のお話で「日本国内で高齢化が急速に進む」とおっしゃっていましたが、具体的に現在どんな状況で、今後どうなっていくのでしょうか?
富原さん「日本の高齢化率※は2018年の時点ですでに26%を超えていて、2040年になると高齢化率が50%以上の自治体が3割を占める見込みです。また、少子化により若年層の人口は急激に減っていくでしょう。 (※全人口に占める65歳以上の人口の比率)
これにより、社会の雰囲気は大きく変わっていくことでしょう。社会保障費の増加による財政の圧迫や、生産年齢人口の減少による労働力の低下。さらには介護離職による労働力の低下と、今後の日本は大きな課題を抱えています。」
「生涯現役社会」実現の鍵を握る医療機器産業
――高齢化の進展が避けられない状況で、日本はどういった社会を目指すべきなのでしょうか?
富原さん「状況を受け止めたうえで発想を転換し、生涯現役社会を目指す必要があると思っています。60歳・65歳を過ぎても息切れせずに仕事を続け、社会で長く活躍するためには、健康が大事です。日本の平均寿命は世界一ですが、今は平均寿命と健康寿命の差が約10年あるので、今後はその差を縮めていき、さらに健康寿命を引き延ばすことが求められます。また、何らかの疾患や障害を抱えたとしても、なるべくこれまでの生活が続けられる。そのために、医療機器や福祉用具の産業がとても重要になってくるのです。」
「エコ」の次は「ヘルスケア」
――「生涯現役社会」を実現するために求められる医療機器の在り方とは、どんな姿でしょうか?
富原さん「人生を長く健康に走りきるためには、スポーツ選手に専属のコーチがつくようなイメージで、一般の人にも『健康管理のコーチ』のような存在が必要になると思っています。CTやMRIなど、医療機器が病院の中だけで使う特別なものではなく、身体の状態をモニタリングしたり、いろいろなところから情報を集めて患者さんの行動変異を促したり、常に一人一人を見守る“コーチ”となっていくのではないでしょうか。」
――医療機器が私たちにとってより身近なものになっていくということですね。
富原さん「そうですね。例えば『エコ』という発想は、『エコ家電』『エコカー』『エコ住宅』『エコライフ』など、今でこそ私たちにとって身近で“素敵”と思える考え方ですよね。あらゆる産業の中に「エコ」という価値が埋め込まれています。しかしながら、もともとは廃棄物処理やリサイクルなど、環境やエコを支える産業は一部の業種だけでした。『エコ』の次は『ヘルスケア』。近い将来、「人生100年時代」を支えるには、ヘルスケアという言葉が日常の中に自然と溢れ、生活のありとあらゆるものが健康を支えていくものになっていくと思います。」
高齢化社会という厳しい現実を別の視点から捉え「生涯現役」という明るい未来を思い描くーー
富原さんの表情に不安の色はなく、医療機器業界のこれからに対する期待が滲み出ているようでした。
次回は、医療業界に携わるうえで大切にすべきことや就活生へのメッセージを語っていただきます。
お楽しみに!
>【特別インタビュー】 経済産業省の医療・福祉機器産業室長に「医療機器業界のこれから」をインタビュー 富原早夏さん①
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