【医療界の先輩インタビュー】
村垣善浩教授編②
医師が今後の医療機器産業へ期待すること
2016年に発表され、大きな話題となったスマート治療室「SCOT (Smart Cyber Operating Theater)」(スコット)の代表研究者として、プロジェクトを牽引する村垣善浩教授。
前回の記事では「SCOT」について語ってもらいました。今回は、医師という視点から見た医療機器産業との関わり方やこれからについてお話をしていただきます。
【今回お話を聞いた人】
村垣善浩
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/ 脳神経外科(兼任)教授 【※肩書は取材時】
医療機器開発のきっかけは、“ニーズ”や“シーズ”から
――村垣教授はSCOTの他にも、医師という立場で医療機器開発に携わってこられたのでしょうか?
村垣教授「はい、例えばガンに有効な治療をするために、超音波を利用した音響力学的療法や、レーザーを利用した光線力学的療法の研究開発など、多くのプロジェクトに関わってきました。研究だけで終わって世に出ないアイデアもたくさんあるのが事実ですが、私は幸いなことに、ほとんどのプロジェクトが商品化までこぎつけました。これは医療機器メーカーと良きパートナーとなって進めてきたからではないかと思います。
研究開発を行った医療機器の商品化や製造、流通などは当然医療機器メーカーが行います。つまり、医師のアイデアだけでは医療機器が世の中に普及することはありません。良い医療機器が開発、商品化されていくためには、医師と医療機器メーカーが協力をすることが必要なんです。」
――研究開発はどのようなことがきっかけでスタートするのでしょうか?
村垣教授「いろいろなケースがありますが、医療現場からこういう医療機器が欲しいなどのニーズからスタートするケースもあれば、メーカーから新たな技術を医療に活かせないかなどのシーズからスタートするケースもあります。したがって医療機器を開発するアイデアやヒントは様々な所にあると思います。ちなみにSCOTは、ニーズとシーズのケースのどちらでもなく、『本来こうあるべきだ』というコンセプトから開発を始め、そのコンセプトにご賛同頂いた各医療機器メーカーと協力をして、SCOTが誕生しました。」
変わりゆく医師と医療機器の関係性
――医師と医療機器の関係性は今後どのように変わっていくと思いますか?
村垣教授「例えばSCOTが一般的な医療現場で幅広く導入された場合、手術を行う医師は自分が使う機器をひとつひとつ選ぶのではなく、臓器系の手術・血管系の手術・胃や腸といった管系の手術など、手術の分野によってパッケージ化された手術室を使い分けるような考え方になると思います。
目的に応じて最適な手術室を選ぶことで、医師の力を最大限に発揮でき、最良の手術や判断決定が実現できるでしょう。そしてそれは手術を受ける方にも多くの価値を生み、より良い医療を患者さんに提供することができるでしょう。」
医師が医療機器業界に今後求めるものとは
――村垣教授が医師の立場で今後医療機器メーカーに求めることはなんでしょうか。
村垣教授「日本の医療機器メーカーは、これまで多くの診断機器を開発してくれました。これからは次のステップとして、ぜひ新たな治療機器の開発に力を入れてほしいですね。例えばAIで最適な治療法を選ぶといった研究は進められていますが、手術が難しい患者さんを直接的に助けるのは、新たな選択肢を増やすこと。すなわち、新しい治療ができる医療機器を開発することです。治療機器の開発はリスクが高いと言われていますが、これから医療機器業界を目指す方にはリスクを恐れず、ぜひ前向きにトライしてほしいです。」
村垣教授の言葉から、医師と医療機器産業の密接な関係を知ることができました。特に最後のメッセージには、日々患者さんと対峙する医師だからこその熱い想いを感じました。
次回は、これから医療機器業界を目指す人に向けての想いをお話していただきます。
お楽しみに!
>【医療業界の先輩インタビュー】村垣善浩教授編①
>【医療業界の先輩インタビュー】村垣善浩教授編②
>【医療業界の先輩インタビュー】村垣善浩教授編③